ジブンミッケ

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笹田陽子さん

 畑作農家 笹田陽子さん



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 番地を聞いたからきっとたどり着けると思っていたが、通り過ぎた。言い訳をすると、確かに地図上にもその番地はあるが及ぶ範囲は広く、目的地のある「このへん」の異常な広さが我々を不安にさせたからだ。これが見渡す限り畑の広がる場所であるからなおさらである。こういうとき筆者はドキドキするが、一方で北海道という地のスケールをしみじみと感じる。
 笹田陽子さんは筆者が通り過ぎた45haの畑で畑作三品(麦類、馬鈴薯、甜菜)を中心に生産する農家のお母さんだ。少々遅れた我々を笑顔で迎えてくれた。
 大きな畑では夫の英樹さんと息子さんが中心となって大型重機を使った大規模な農業を展開している。陽子さんの仕事はニラ、レタス、トマト、ナス、オクラ、行者菜などの野菜を栽培し、直売所に出荷することだ。

〜新野菜、行者菜〜
 
 ここで、行者菜というものを聞きなれない人は多いかもしれない。これは、行者ニンニクとニラを掛け合わせて生まれた新野菜で、見た目はニラに似ているが少し肉厚、味や香りは行者ニンニクに近い。北海道内では網走市のみが栽培を認められている貴重な野菜だ。
 笹田さんはその網走市内で行者菜を栽培している数少ない農家の内の一戸であり、一昨年から導入を始め昨年から栽培を本格化させている。単価はニラの約2倍と高価だが、注目されている新野菜だけに売れ筋は好調、出荷範囲も広がっているという。「これがどんどん広がっていけば、網走の魅力を多くの人にアピールできるんだけどね。」と行者菜の可能性に期待を寄せていた。
 栽培している野菜の中でも陽子さん自慢の野菜は、やはりこの行者菜であるそうだ。めんつゆで漬けたり、餃子の具としたり、天ぷらにすれば香りを活かすことができるのでおすすめだという。「一度食べてもらえればその魅力を分かってもらえる。」と行者菜を語る陽子さんは自信に満ちていた。


 


〜天候に左右される仕事〜
 
 ところで取材当日、陽子さんはレタスの作付けをしていたらしいのだが我々が到着した直後に降った激しいにわか雨によってレタスはしょんぼりと元気を奪われた。前日にも害虫の防除作業をしたばかりで、それも結果的に虚しい作業になってしまったと嘆いた。また、8月の初旬には雹が降ったこともあり、その影響か玉ねぎの収量が例年に比べ落ちているという。
 こうやって仕事の進行を天候に左右されてしまうことは非常に辛いことだろう。これまでに何件かの農家を取材してきたが、やはりほとんどの人が同じようなところに農業の辛さを感じているようだった。
 この日、陽子さんも予測できない天候に頭を抱えた。

〜活力源〜
 
 やはり辛いこともあるようだが、逆にどのようなところで農業の楽しみを感じるのか訊いたところ、「毎日野菜を収穫することが一番楽しいね。」と陽子さんは笑った。
 日々変化する天候やその年によって異なる気候と向き合うとき、頭を抱えることはきっと多いことだろう。また仕事の特性上足腰への負担は避けられないため肉体的な辛さも出て来るはずだ。そういったたくさんの苦労の中で育てた野菜が無事に実って収穫を迎えるとき、農家は一年の中で最も大きな喜びを得ることができる。彼女のバイタリティーを生み出している要因はきっとここにあるのだろうと筆者は思う。
 しかし最近では、彼女の年齢を心配してか、もうあまり野菜を蒔かないようにと注意されることもあるという。「それでも毎日ハウスや畑に出て、虫が来てないかとか病気が出てないかとか思いながらやっていて、そういうところをきちんしていると自然と愛着が湧くし、やっぱり可愛いよ。」と野菜作りへの思いを語りこれからも続けていく意思を見せてくれた。
 彼女は、怒られながらもその身体が許す限りは野菜作りを続けていく。ほとんど病気をしたことがないというからまだまだ現役を続けられそうだ。

〜彼女の生き方から学ぶもの〜
 
 そもそも我々の取材の目的は、農業を営む人々にその生き方や考え方を教授して頂くことで、極端な言い方をすれば説教を賜りたかったのだが、陽子さんのそれは終始控えめだった。それでも、やっと言葉を選んで「何事も努力して、勉強しないといけない。」と教えてくれた。努力も勉強も人一倍してきた人の言葉であるだけに、気が引き締まる思いだった。
 ところで筆者が思うに、彼女の生き方から一番学ぶべきことはむしろ言葉では語らない部分にこそある。それは仕事を通して明るく、楽しく、元気に、感動して、豊かに、カッコよく生きることの素晴らしさだ。その、仕事に向き合う姿勢を是非とも見習いたい。

編集者 石田貴久

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